トラウマ・PTSDに対する心理療法は、効果が実証されているものの中でも
現在は多種多様にあります。
日本では、PTSDに対する認知行動療法として、代表的に挙げられるひとつと
して、PE(長時間暴露療法)があります。さらには、TF-CBTも効果が十分に
実証されています。
PE研修も基礎から応用までひと通りはトレーニングを受けています。
効果は確実にありますが、その名の通り、曝露(エクスポージャー)の強度が
高く耐えられない方が少なくないため、自分の心理面接ではなかなか導入する機会は少なかったりします。しかし、トラウマ・PTSDに関する心理教育や治療者としての心構えなど、
クライアントへの関わりに大いに役立っています。
トラウマ・PTSD関連での各種心理療法(i Presence Consutingが主に提供しているもの)
IPT(対人関係療法):うつ病に対して認知行動療法と双璧をなす実証性
が高い心理療法。トラウマへの曝露は行わないけれど、トラウマが
現在の対人関係に及ぼす影響力には注意を向け、「対人過敏」という
特徴をトラウマ症状の「過覚醒」として捉え、適切な明確化と心理教
育を行う。日本での普及の第一人者は水島広子先生。
うつの背景にあるトラウマやPTSDに着目し、「トラウマうつ」とい
う言葉を提唱しておられる。
PE(長時間曝露療法):E・フォア博士によって開発された。
EMDR(眼球運動と脱感作による再処理法):WHOが推奨するPTSD治療のひとつ。
See Far CBT:NATOが推奨するPTSD治療法のひとつ。多重コーピングモデルBASIC-Phの開発
者であるムーリ・ラハド博士によって開発された。PE、SE(ソマティック・
エクスペリエンシング)、FR(ファンタスティック・リアリティ)の要素を
統合したアプローチ。
TFT(思考場療法): 米国保健福祉省 SAMHSA(Substance Abuse and Mental Health Services Administration: 精神衛生サービス局) がエビデンスのある治療法
として推奨。ロジャー・キャラハン博士による。タッピングによる
アプローチ。
HT(ホログラフィ・トーク):嶺輝子先生が開発。
Brainspotting(ブレインスポッティング):ディビッド・グランド博士による。EMDRを発
展させたアプローチ。
BCT(ボディ・コネクト・セラピー):藤本昌樹博士により開発された統合的身体志向療
法。これまでのトラウマに対する心理療法を踏まえ、
新たなタッピングなどを取り入れたトラウマケア療法
たくさんあり過ぎて混乱しそうと思われるかもしれないですが、 曝露なし(薄い)から曝露あり(濃い)のものまで、状況と状態に応じて、 臨機応変に落ち着いて取り組めるから習得して来た意義は確実にあると考えています。
特にトラウマへのアプローチで、トラウマそのものを扱わない(曝露への脅威が強すぎる人に曝露を目的や方法としない)IPT(対人関係療法)のトレーニングをしっかりと受けて、実践しながら並行して必要に応じてトラウマ解消へのアプローチをオーダーメイドで取り組めるところは、他ではほとんどないと私は認識しています。
ごく最近では、IPT(対人関係療法)のトレーニングを受けていらっしゃる精神科医の先生から、「トラウマに関する認識は高まり、ある程度の整理がついたので、トラウマに対してEMDRをお願いします」と患者(クライアント)への介入依頼を受けたという話をBCT(ボディ・コネクト・セラピー)の研修を受講していた臨床心理士から耳にしました。
トラウマ臨床に関して、とても理想的な連携・協働体制が取られている病院であるなと感じました。
しかし現実的には、まだまだこのような体制で、トラウマを抱えておられる方への心理支援が展開されているところは、そう多くはないように思われます。
そしてまた実際にはトラウマ臨床に関わっている専門職の方々とは、上記の各種トレーニングで共通して顔を合わせることが多いです。だから実は別にそれほど特殊でもないのです。
本当でしたら、TF-CBTも、SEもTREも
マインドフルネス段階的トラウマセラピー(MB-POTT)もきちんと身につけたいと考えています。時間や資金の投入の都合上、段階を追って技術をさらに洗練させていきます。
今月はトラウマに関するスキーマ療法のトレーニングを受けます。
「複雑性トラウマとパーソナリティ障害に対するスキーマ療法実践ワークショップ」。
上記に挙げた心理療法でも、常にテーマとなるものでもあります。
なぜトラウマにここまで私がこだわるようになったのか。
少しだけ触れておきたいと思います。
i Presence Consultingでは、「自分らしく生きる喜びを伝える」「自分らしさをお互いに大切にし合える社会の構築」を使命としています。
「自分らしく」を考える時に大切な点として、自分らしく豊かに生きているとしたら、「どうなっているか」という必然的な未来像がひとつの鍵を握っていると私は考えています。
これは解決志向ブリーフセラピーの特徴のひとつである「未来志向」です。
私はもともとこの「解決志向」「未来志向」を中心に、心理カウンセリングに取り組んで来ました。どうなりたいか、どうなっているかという「解決像」「未来像」を描くことができれば、その解決イメージ、未来イメージに向かってその人の脳と心は情報処理が働き、うまくいっている時(「例外」は解決の一部)に焦点が当たるようになり、それを増やしていくことができる。さらに描く未来に向かって自分のリソース(内的な力や外的な力)を活用することができるようになって来ます。問題の原因探索とは関係なく、描かれる解決像に向かっていくのを促進する。それが「解決志向」のアプローチです。
「クライアントは解決の専門家である」これが原則のひとつになっています。
この視点に基づくアプローチで、劇的な変化や改善が起きることも珍しくないですが、
中にはこの解決像や未来像が描けない人、描きづらい人がいます。
その多くはトラウマやPTSDを抱えているクライアントでした。
PTSD・トラウマ症状の下位項目のひとつに「未来が短縮された感覚」というものがあります。これは、文字通り、自分の人生に先が見えない、明るい希望が持てない状態です。
解決像や未来像に注目をしながら心理療法を行って来た立場から、
これが症状のひとつとしてあるということの意味は大きいと感じるようになりました。
その人らしさに向かう原動力となるはずの肯定的な未来イメージを描けなくさせているものとして、トラウマやPTSDという症状や現象が機能していたということへの気づきとなったのでした。
解決像や未来像を大切にしていきたいからこそ、それに干渉するトラウマ(記憶)の影響力にもきちんと目を向ける必要がある。そして、幸いにも現在はトラウマに対して、様々な
改善につながる知見とテクノロジーがある。それを知ることで、多くの人が自分らしさに
向かっていくことをもっと速く、サポートしていくことができるかもしれない。
そんな風に意識するようになった次第です。
もちろん、未来(解決像)と過去(トラウマ)だけを見ていても十分ではありません。
私たちは、常に、「今、ここ」を生きている存在なのですから。
今ここの問題を整理しながら、具体的に解決を図るアプローチも必要不可欠です。
それが認知行動療法(「問題解決療法」を含む)であり、対人関係療法であり、
自我状態療法であったりします。
マインドフルネス(第三世代の認知行動療法を含む)もそこで意味をもってきます。
そしてマインドフルに今、これから、これまでに注意を向けて観ていく。
だから、現在、未来、過去に対するオーダーメイド型カウンセリングが誕生したのです。
自分らしさを発揮し、自分らしさにいつでも戻ることができるように。
現在、といっても問題だけではなく、今すでに自分にあるもの、できていること、力やリソ
ースにも(リソースにこそ)目を向けていくことが必要。
未来、といっても解決像だけでなく、リスクマネジメントの発想も必要。
過去、といってもトラウマだけでなく、成功体験やサバイバルストーリーや対処してきたス
キルや資質にも目を向けることが大切。
トラウマだけを見ていても、肯定的な未来像、光に向かう道は見つけられません。
しかし、それでもトラウマのことを無視するわけにもいきません。
知らないことでクライアントの不利益になることを可能な限り減らしたい。 知ることでクライアントの利益を増やしたい。
行動原理はシンプルです。
i Presence Consulting5つの安心、
3.「みなさんのお役に立つために自己研鑽を怠りません」は
私が臨床心理士として13年間(大学院時代からは16年間)、一貫して
自分に課して実践してきたことが背景になっています。
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